我が力を求めよ

  この世界に、

   再び光を戻すために



七色の聖賢
第二話 光の大精霊・飛鳥




「…暗いな。」

 七色の光が消えてから、煌達はその場で火を焚いていた。
 辺りは真っ暗だ。おまけに家の光も無い。
 そしてもうこの夜が、明ける事はずっと無いのだ。

「…あの光、神様は“レイ”と呼んでいたの。」

 神楽が意を決したように話し始める。煌と刹那は黙ってそれを聞いた。

「今は、応答もして下さらないから、私への連絡も、レイが消えた事で出来なくなったんだと思う。」

 最高位の巫女である神楽は神殿の近くに居れば神の声が聞こえるという。
 それが聞こえなくなったという事は、何らかの事情で神が連絡を拒んでいるか、連絡出来ないかという事になる。

「レイを作ったのは光の大精霊、飛鳥よ。神との対立分子。
 飛鳥はあれを残して行った時、繰り返せば失われる、と言ったらしいわ。」

「よく語り部達が言うあの言葉だよな?」

 煌がここに来る前に子ども達と聞いていた話の中にもその言葉は出てきた。
 確認するように問うと、神楽が頷く。

「だとしたら…もう一度戦争が起きようとしている…かもしれないな。」

「取り敢えず、世界の状況を確認した方が良いんじゃないかしら。」

「俺としては、村の事も気にかかるが…。」

 刹那と神楽は二人で色々推測をし、そこまで言ってから二人同時に煌を見た。

「な、何だよ。」

「煌、お前木から話を聞けるよな?」

 煌は刹那の言葉で思い出した。
 自分には人でないものの言葉が聞ける。

「その手があったか!
 ちょっと待ってろ…。」

 煌は精神を集中させた。
 この力は、自分が聞くだけではなく、人に聞かせる事も出来る。
 その分、体力の消費も激しいが、三人程度ならまだ大丈夫だ。

 木々の声が聞こえてくる。その内容はどれも、光が強くなった一瞬の後に消えた、と言うものばかりだった。

 どれもあまり変わらない回答を一通り聞くと、煌は木々との連絡を切る。
 すると、煌は自分の中に入り込む何かを感じた。
 木々の話を聞く事は多々あったがこんな事は初めてだった。
 徐々に意識が薄れてゆく。

「おい、煌!煌!?」

 異変に気付いた刹那は煌の肩を揺する。
 すると、煌は刹那の手を払った。

「この小僧の体、少しばかり借り受けるぞ。」

 顔を上げた煌の顔立ちがいつもと違って見えて、刹那は飛び退いた。
 その刹那を一瞥して、煌は話を続けた。

「貴様が神の当代の巫女だな?」

 神楽を睨むように見て、煌は問う。
 その威圧感に虞を感じた神楽は、はい、と答えるのがやっとだった。

「この小僧を連れ、聖壇に来るが良い。」

 それだけ告げると、煌の体はその場に崩れた。
 刹那が直ぐにそこへ向かう。

「煌!しっかりしろ!」

 刹那は煌の体を揺さぶり、声を掛けた。
 すると、煌はゆっくりと目を開いた。

「あれ、俺は…。」

「大丈夫?」

 虞を取り除き、やっとの思いで立ち上がった神楽は煌の顔を覗き込む。

「そういや、何か力を使った後に、何かが入り込んできて…それから、聖壇に来いって呼ばれて…。」

 煌はボーっとする頭でなんとか記憶を探る。

「その入ってきた奴に体を乗っ取られてたんだろうな。」

「行きましょう。行った方が良いと思う。」

 神楽は自らの荷物を持つ。そして、神殿を見た。
 刹那も賛成だと言う風に立つ。
 煌も、二人に続いて立ち上がった。


 神殿の奥に進むと、もう聖壇の部屋へ続く扉は開いていた。
 まるで、煌たちが来るのを待ち構えていた様に。

「…入って良いのか?」

 聖壇の部屋へは普段、巫女しか入るのを許されていない。
 護衛でついて来ても、いつも扉の前で待っている事になるのだ。

「良いと思うわ。いつも感じている気配を感じないもの。」

 神楽がそう言うのを合図に、三人は聖壇の部屋に入った。
 そして、直ぐに気づく。聖壇の前に、こちらに背を向けて誰かが立っている。
 三人はその人に近付いていった。

「…来たか。」

 振り返ったその人の容姿は、この世のものとは思えないほど端麗なものだった。
 おまけに金に近しい銀色の長髪を束ねもせず流している。
 もしこんな状態で会っていなければ、目を奪われただろう。
 けれど今はそんな事を言っている場合では無かった。

「誰だ、あんた…。」

 煌が問うと、その人はゆっくり口を開く。

「我は、飛鳥。」

「!飛鳥って、あの光の大精霊の!?」

 その答えに煌たちは驚く。
 神話などの説話にしか出てこなかった光の大精霊が今目の前に居るのだから。

「如何にも。我が光の大精霊だ。今回のレイの消失によって、この世界に戻る事が出来た。」

「ま、待てよ…。いきなり光の大精霊なんて言われても…。」

 飛鳥の言葉に煌はたじろぐ。すると飛鳥は頷いた。

「いきなり信じろとは言わない。確かに今私の立場を証明するものは何も無い。
 神の手によって、封印されているのでな。」

「では、貴方は何故私達にここへ来いとお命じに?」

 言葉も出ない煌の代わりに神楽は問う。

「お前なら…いや、お前達なら、この世界に光を戻す事が出来るかもしれないからだ。」

 煌達は耳を疑う。
 さっき見た光景の直後、その解決策が見つかるかもしれないと言われると、少しでも希望が沸いてくるけれど。

「その為には、私の力を元に戻さねばならない。
 …方法だけでも聞く気があるか。」

 飛鳥の問いに煌達は顔を見合わせ、再び飛鳥に向かい、頷いた。
 飛鳥は了承したように頷き、聖壇を見た。

「我が力は、神のある特殊な力によって封じられている。この聖壇を媒体にしてな。
 我が力を再び解放するには、ある条件が必要となってくる。」

「条件?」

 飛鳥は煌の問いに頷き、聖壇に触れた。

「各地にある神殿内の聖壇に封印された我が仲間を、全て解放し、一ヶ所に集める事。それが条件だ。
 そして、我が仲間・大精霊を呼び出し、移動可能にするには、それに対応する使者が必要となってくる。」

「待てよ、それならどうしてあんたは出てこれたんだい?」

 それまで黙って聞いていた刹那が突然飛鳥に訊いた。
 飛鳥は、つい、と煌に視線を向けた。

「え、俺?」

「お前が、我の使者だ。そしてお前は、特殊な能力を持っている。だから通じる事が出来た。
 本来ならば力を持つ者が聖壇に近付かなければ、封印は解けないだろうが…
 運が良かった。巫女ではないお前はここに近寄る事も無かっただろう。
 そして、他の者たちもまた、神の意志によって近寄らないように定められているだろうからな。」

「それって…運が悪かったら世界は一生このままだったって事か!?」

 煌が叫ぶと飛鳥は、そうだ、と言った。

「信じるか信じないかはお前達次第。そしてこの世界が滅ぶか滅ばないかもお前達次第だ。」

 煌は考えた。確かに、信じ難い話だが、それ以外頼れるものは何も無い。
 やってみて、もし世界に光が戻るなら、それが一番良い選択だったという事で。
 悪いときの事は考えないようにした。

「分かった、俺は信じるよ。」

 煌の言葉に刹那と神楽は驚き、飛鳥もまた信じられないという風に煌をもう一度見た。

「だってさ、それ以外方法何も無いしな。案外さっさと終わったりして。」

「馬鹿か!世界は広いんだぞ!それに使者が何処に居るかも、見分けも付かないんだ!」

「そうよ!私達が必死で世界中を探したって、その資質が見つからなければ意味無いのよ!?」

 煌が言うと、刹那と神楽は必死で反対した。煌にはそれが何故だか分からなかったが。
 奥に居た飛鳥も、自分で言っておいて何だが…、と呟いている。恐らくこんなに早く承諾されるとは思っていなかったのだろう。

「でもさ…飛鳥、こんな事を提案したなら、策があるんじゃないのか?」

 煌の咄嗟の言い訳に、飛鳥は虚を突かれた。

「…確かに、無い事も無い。」

 飛鳥の答えに、刹那と神楽はもちろん、煌まで目を丸くする。

「我ら精霊は、その素質があるかどうかぐらいは見るだけで判断が出来る。
 だが、それには具現化が必要になる。…召喚士がいなければ敵わない。」

「具現化?召喚?」

「今お前達が見ているのは、我の意識だ。具現化には体がなければならない。
 その為に必要なのが、天界にある我らの体をこの世界に召喚する召喚士が居なければいけないのだ。
 …だが、その召喚士がどこに居るのか…。」

「召喚士なら知ってるぜ。」

 はぁ…、とため息を吐いて、刹那は言う。
 煌が興味を示したら止まらない事が分かっていて止められないのだ。

「ホントか!?」

 一方の煌はそんな刹那の気持ちも知らずに期待を馳せる。

「首都だ。この国の首都にいるはずだぜ。最年少の召喚士がな。」

「じゃあ、直ぐ行こうぜ!直ぐ!」

 止まらない煌を見て、神楽は、子供みたい…、と頭を抱えた。

「…それならこれを持て。」

「これは、イヤリングか?」

 煌は飛鳥からイヤリングを受け取った。それは眩い輝きを放っているような、金のイヤリングだった。

「それは我の媒体だ。聖壇の封印以外の唯一の媒体だ。
 それをつけていれば我が声も聞こえ、お前が語りかける事も出来る。そして少なからず我が力を使う事も出来るだろう。それはお前の潜在能力をも引き出す。
 だが忘れるな。失くせばもう、光は潰える。」

 飛鳥はそれだけ言うと、イヤリングに吸い込まれた。
 煌は言われたとおり、イヤリングを耳に付け、振り向いた。
 そこには刹那と神楽が居る。呆れ顔だが、煌について来てくれるつもりだろう。

「よし!行こう!」




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